ユーザーインタビュー

インタビュー 服部克久氏

服部克久氏

「何かやるときは最初に立ち上げる、今では無くては困るもの」

記譜した後、すぐ音で確認できる
これが譜面作成ソフトを使うメリット
sibeliuski 先生がSibeliusを使い始められたきっかけからおしえてください。
3年くらい前に病気を患って入院したんだよね。しかしそのとき、アルバムの仕事を1枚抱えていて、何とかしなくちゃいけなかったんだけど、病気の影響で手が思うように動かない。 それでどうしようと考えて、コンピューターのソフトを使えば何とか記譜できるんじゃないかと思ったんですよ。それでSibeliusを手に入れて、たどたどしくも何とかアルバムの制作を終えることができて。それで使い方を習得した感じですね。 実は随分昔に、別の譜面作成ソフトを手に入れたことがあったんですよ。でも、みんな同じだとは思うんだけど、こういうのって切羽詰まらないとやらないんだよね(笑)。 いつかやろうと思っているうちに4年くらい経っちゃって、ソフトや一緒に買ったMIDIインターフェースは全部古くなり、結局1度も使わずに処分することになっちゃった(笑)。だから今思うと、病気のおかげでSibeliusを習得できたって感じですかね。 服部先生
sibeliuski コンピューターを使って記譜することには、以前から興味があったんですね。
何年か前にスタジオでミュージシャンの方から、「この音、間違ってませんか?」とか指摘されることがあって。それで写譜屋に文句を言ったら、「いいえ、先生が書いた譜面どおりに写譜していますよ」と言われてしまったんですよ。 それで元の譜面を見たら、確かに僕が間違えていた(笑)。それでこれはイカンと思ったのが、譜面作成ソフトに興味を持ったきっかけですね。コンピューターを使うと、記譜した後すぐにプレイバックできるでしょう。それで間違いがあればすぐに判る。あれがいちばん大きいですよね。耳で聴けば間違いが判るから。 それにコンピューターだと、表示を拡大して記譜できるし。僕はシンフォニー・オーケストラを使ったポップスのコンサートを手がけることが多いんですが、ああいう仕事ってとにかく時間が無いんですよ。その点、Sibeliusを使えば短時間にパーフェクトな作業ができる。 服部先生
sibeliuski コンピューターを使われる前は、もちろん手書きだったわけですよね。
もちろん。そこに大きなラックがあるでしょ。
その中に大体5万曲ぶんの譜面が入っているんです。
服部先生
sibeliuski 5万曲!? すごい・・・・・。
40年間かけて書いたものだから、そのくらいありますよ。Sibeliusを使い始めて唯一寂しいのは、そういう書き終わった後の証が残らないこと(笑)。USBメモリーを眺めて、去年の仕事はこれだけかと思うと少し寂しいですよね(笑)。 服部先生
sibeliuski 手書きの譜面をスキャニングする計画は?
それは誰かにも言われたんですけど、なんか上手くいかないみたいなんですよね。スキャニングした後に、手作業で直さなきゃいけないみたいだから、結局時間がかかるって。 服部先生
sibeliuski 譜面作成ソフトを使い始めて以降、できあがる作品に変化はありましたか?
最初は影響があるかなと思ったんだけど、結局何も変わらないですね。ウチの息子なんかは「そういうので記譜すると、作風に影響が出るよ」とか言って、いまだにコンピューターを敬遠してますけど(笑)。でも、もう3年以上使ってますけど何も変わらない。 もちろん、繰り返しのリフなんかは手書きよりもラクにできたりするんですけど、今までどおりやろうと思えば普通にできますし。 Sibeliusを使い始めたことによる影響を強いて言うなら、それ以前と比べてリクエストに応えられるようになったということくらいじゃないですか。対応性は上がりましたね。
基本的には鍵盤で音を入力して音価を選ぶだけ
思ったよりも難しくなかった
sibeliuski 他にも譜面作成ソフトはありますが、Sibeliusを選ばれたのはなぜですか?
うーん、それがよく憶えてないんだよね(笑)。前にキーボード・マガジンか何かの取材を受けたことがあって、そのときに譜面作成ソフトの話題が出たんですよ。 それで「前に手を出したことがあるんだけど、一度も使わずに処分しちゃった」という話をしたら、編集者の方に「Sibeliusというソフトがいいと思いますよ」と薦められて、それで名前を憶えてたのかな。 服部先生
sibeliuski 先生はSibeliusをMacで使われているんですね。
昔はWindowsだったけど、最近はMacですね。ついこの前も11インチのMacBook Airを買ったばかりで、僕はこういう機械が大好きなんですよ。いろいろ買うので、女房にはしょっちゅう怒られてますよ(笑)。 服部先生
sibeliuski Sibeliusの操作は、すぐに習得できましたか?
思ったよりも難しくなかったというのが正直なところですね。基本的にはキーボードで音を入力して、あとは音価を選ぶだけでオーケーでしたから。その後、いちおうアルファベット入力のやり方も憶えて、旅先でMacBook Airで入力するときには使ったりしています。 でもほとんどステップ入力ですね。フレキシタイム入力は、未だにやったことない。 服部先生
sibeliuski フレキシタイム入力は、少しコツが必要なんですよ。Sibeliusユーザーのほとんどは、ステップ入力を使われているようです。
そうでしょう。上手くクオンタイズしないと変な譜面になっちゃうからね。でも同じくSibeliusユーザーの小六さん(小六禮次郎氏)は、入力した音を聴きながら、その上にフレキシタイム入力で音を重ねていくのがおもしろいとか言っていた(笑)。 理論どおりじゃない変な譜面も、それはそれでおもしろいと。 服部先生
sibeliuski 先生の周りでも、Sibeliusをお使いの方がいらっしゃるんですね。
何人かいますよ。バリバリに使いこなしている人もいれば、買ったはいいけどまだ手を付けていない人もいる。この前もある作曲家から、「先生、Sibeliusって難しいですか?」って訊かれたので、「なに言ってるの。オレができるくらいだから簡単だよ」って言ったんだけど(笑)。 服部先生
sibeliuski 買ったのに手を付けていないなんてもったいない!私がレクチャーに行きますとお伝えください(笑)。
それはいいかもね(笑)。他にも興味がある人はいるんだけど、みんな忙しいから、なかなか手を付けられずにいる。僕はどうにか習得しちゃったけど。そうそう、僕は弦を録るときはロンドンでやることが多いんだけど、あっちの連中は全員Sibeliusですよね。 服部先生
sibeliuski Sibeliusはイギリス生まれのソフトなんです。
そうなんだよね。ロイヤル・アカデミー・オブ・ミュージック(Royal Academy of Music/英国王立音楽院)という有名な音楽学校があるじゃないですか。あそこの先生がよく指揮に来てくれたんだけど、彼も譜面はSibeliusのデータでくださいと言っていた。 向こうのミュージシャンは、Sibeliusで出力された譜面を見慣れているからいいみたいですね。
どんなスタイルの音楽にも対応する
現代音楽の人もどんどん使った方がいい
sibeliuski Sibeliusで特に気に入っている機能はありますか?
ショートカットですね。Sibeliusを使いこなすのであれば、ショートカットを憶えないと作業効率はだいぶ落ちると思います。たとえば僕の場合は、I(楽器)、L(ライン)、X(反転)、S(スラー)、R(リピート)といったシングルショートカットをよく使いますね。 それと僕は便利なショートカットを発見したら、付箋に書いて目につく場所に貼っておくんですよ。あとはフィルター機能。僕はコーラスを多用するし、歌詞をいっぱい入力するから。それと譜面を印刷するときは、ドキュメントセットアップでいろいろと設定を変えていますね。 僕はレイアウトは自動レイアウトにしているんですが、譜表間の間隔なんかは段数によって変えたいので、そういうのはドキュメントセットアップで設定しています。 たとえばシンフォニーの場合は、いちばん大きなA3を選ぶことが多いんですけど、それだとプリントした場合に2段になったりするので、いろいろな設定を使い分けているんですよ。 服部先生
sibeliuski Sibeliusを使う上で気を付けていることがあれば・・・・・。
譜面を作成した後、ファイルが無くなってしまうのが恐いので、バックアップはしっかりやっています。外付けのハードディスクも繋いでいるし、AppleのTime Capsuleを使って、Time Machineで自動バックアップもしている。だから同じファイルのコピーがたくさんできちゃうんですけど(笑)。 でもSibeliusのファイルは軽いですからね。テキスト・ファイルと変わらないから、USBメモリーに入れて持ち運んだりもします。 服部先生
sibeliuski 今後使ってみたい機能とかありますか?
オーディオ・インターフェースはMbox 2なので、Pro Toolsもインストールしてあるんですよ。だからPro Toolsが使いこなせれば、もっとおもしろいんだろうなぁと思いますけどね。なかなかそこまで手が回らない(笑)。 服部先生
sibeliuski 服部先生にとって今、Sibeliusはどんな存在になっていますか?
もう今や無くなったら困るものですよ。何かやるときは最初に立ち上げますしね。もちろん、オリジナル曲の場合は浮かんだメロディーを紙にさっと書いておいて、その後Sibeliusを使い始めるんですけど。アイディアは紙に書いておいて、膨らますのはSibeliusでという感じで。 もう紙を使わず、いきなりSibeliusを立ち上げる人もいるみたいですし、いろんな使い方がありますよね。 服部先生
sibeliuski Sibeliusの良さというと?
他のソフトのことはよく知らないんですが、僕がやろうとしていることにはしっかり応えてくれる。それに何より操作性が直感的ですよね。だからこそ、病気を患っていた僕でも使えたんじゃないかな。 それと機能が豊富なので、どんなスタイルの音楽にも対応する。この前もある作曲家から、「先生、Sibeliusって現代音楽でも使えるんですか?」って訊かれたんですよ。「拍子や小節線を無くしたりできるんですか?」って。だから僕は「もちろんできますよ」と答えました。 僕なんかまだ全然使いこなしてないんだけど、本気でやろうと思ったら、何でもできますよね。 服部先生
sibeliuski できます! 意外とできるんです(笑)。
そのこと、もうちょっと宣伝した方がいいかもしれない(笑)。現代音楽の制作って、なかなか予算が厳しいんだけど、それでも写譜は絶対に必要じゃないですか。しかしSibeliusを使えば、譜面を作るのは簡単だし、そのまま印刷して出版することだってできる。 だからそっちの世界の人もどんどん使った方がいいと思って、その作曲家にも早くSibeliusを使うように薦めたんですけど。
そうしたら、「うーん、考えてみます」って(笑)。
服部先生
sibeliuski 興味がある方は、考える前に始めてほしいですね。
そうそう! 始めよう、Sibelius。さらば報われん(笑)。そんな感じかな。 服部先生
sibeliuski 本日はお忙しいなか、ありがとうございました!

服部克久 ~プロフィール~

日本を代表する作編曲家。パリ国立高等音楽院修了。
音楽活動の傍ら、様々なジャンルの音楽監督やプロデューサー、音楽祭の理事や審査員、更にはコメンテーターとしてテレビ出演など枠にとらわれない才気あふれる活動が注目を浴びる。
日本作曲家協会、及び日本作編曲家協会会長を歴任しながら、日本の音楽シーンの発展に尽力。2009年には音楽家生活50周年を迎え、アルバム2枚をリリースした他、記念コンサートを開催し大きな話題をよんだ。
2014-01-01 | Posted in ユーザーインタビューComments Closed