ユーザーインタビュー

インタビュー 山本恭司氏

山本恭司氏

「Sibeliusは、とにかくScorch が便利。譜面だけでなく、タブ譜も表示されて音も再生されるという、至れり尽くせりのソフトウェアですよ」

Sibeliusを使えば、一度作った譜面から、さまざまなバリエーションを簡単に作ることができる
sibeliuski まずは恭司さんとSibeliusの出会いからおしえてください。

Sibeliusを使い始めたのはバージョン2が出たときだから、2003年のことになるんですが、当時は自分のバンドやセッションでの活動が増えていた時期だったんですよ。
僕はきれいに譜面を書くタイプの人間ではないので(笑)、少しでも良い形でミュージシャンに譜面を渡せたらいいなと思ったのがSibeliusを使い始めたきっかけです。それに学校でも教えているので、生徒たちにきれいな譜面を配りたかったですしね。
それで行きつけの楽器店のスタッフに何がいいかなと相談して、
おしえてもらったのがSibeliusだったんですよ。
試しに使ってみたら、もうバッチリで、まさに僕が求めていたものでした。それまでは譜面は完全に手書きで、こういうソフトは一度も使ったことがなかったので、その仕上がりの綺麗さにとても感動したのを憶えていますよ。

山本さん
sibeliuski 普段から譜面はよく書かれていたのですか?
そうですね。でも、ロック・バンドって基本的に譜面は使わないんですよ(笑)。だから昔はまったく書かなかったんですけど、BOW WOWがVOW WOWになったときにキーボーディストがメンバーとして加わったので、その辺りからコード譜だけは書き始めました。あとはキメの部分とね。
でも、セッションとなると、コード譜とキメだけというわけにはいかないじゃないですか(笑)。しっかりとした譜面が絶対に必要になるんです。ですから譜面をしっかり書き始めたのは、セッションを始めてからですね。
山本さん
sibeliuski 記譜法などはどうやって習得されたのですか?
いちおう、小学生のときにヤマハの音楽教室に通っていたし(笑)、高校卒業後はネム音楽院でも学びました。だから小さい頃から譜面には慣れ親しんでいたんです。その後ロックバンドでデビューしてからはしばらく縁遠かったですけどね。 山本さん
sibeliuski Sibeliusはすぐに使えるようになりましたか?

基本的なことはすぐに使えるようになりましたよ。一番便利だなと思ったのは、いつでも構成を変えられるところ。手書きの時代は、途中で構成が変わると全部書き直していたので、これは最高だなと思いましたね。それと移調もそう。こんなに便利なものなら、もっと早く使っておけばよかったと思いましたよ(笑)。

山本さん
sibeliuski 移調はよく使われるんですね。
よく使いますね。曲の中で転調するときとか、モジュレーションを使って。僕の曲では半音ずつ上がっていくアレンジとかがよくあるから、そういう場合はモジュレーションを使うと簡単にできるので便利ですね。 山本さん
sibeliuski 入力はアルファベット入力ですか?
最近はアルファベット入力でやるようになりました。まだまだ遅いんですけどね。やっぱり速く入力できるようになるには、細かい打ち込みをもっとこなさないとダメだなと思います。
普段はセッション用のコード譜の作成がほとんどで、細かな音符の入力はたまにしかやらないですから。
これは余談ですけど、ウチの息子(註:ドラマーで作曲家の山本真央樹氏)がSibeliusのプロなんですよ。だから入力も僕の何十倍も速い(笑)。もの凄く使いこなしていますね。最近僕がアビッドさんに質問しないのは、息子に訊けばすぐに答えが返ってくるから(笑)。
たぶん何年か後には、このインタビューも息子にすることになると思いますよ。
山本さん
sibeliuski ストリングス・アンサンブルの譜面もよく作成されるそうですね。
そうそう、ストリングスのような大編成の譜面を作成するときには、Sibeliusは特に便利ですね。先日もストリングスの譜面を作成したんですけど、演奏してくれた中国人の弦楽器奏者がシャープの表記だと譜面が読めないって言うんですよ(笑)。
だから慌ててシャープをフラットに変えたんですけど、そんなこともSibeliusなら一瞬で出来た。それは凄く助かりましたね。
それと先ほども言いましたけど、決まった曲の構成を変えるときはSibeliusは本当に便利ですよね。同じ曲でも、演奏するメンバーによってソロの長さとか尺が変わってくるじゃないですか。そんなときもSibeliusなら、手元にある譜面をベースに、構成を簡単に変えることができる。
一度作った譜面から、誰々ソロ・バージョンとか、何々セッション・バージョンとか、いろいろなバリエーションを作ることができるんですよ。ゼロから作成するのではなく、ちょっとしたマイナー・チェンジで済んでしまうわけですから、本当にSibeliusさまさまですよね。
山本さん
sibeliuski 特に気に入っている機能はありますか?
たくさんありますよ。1段1ページにまとめる機能とか、シングル・ショートカットの“L”とか……。あとはフォント・サイズの変更もよく使いますね。
ミュージシャンが皆それなりのお年頃なので(笑)、コード・ネームを大きくしたりとか。学校で教えるときは小さいままなんですけどね(笑)。
山本さん
sibeliuski ミュージシャンに譜面を渡すときは印刷するんですか?
セッション・ミュージシャンにはPDFで渡したりしますよ。それで譜面が読めないバンドのギタリストなんかに渡すときは、Scorch(註:Web ブラウザにSibeliusのファイルを表示させることができる無償のソフトウェア)が活躍していますね。
Scorchは、Sibeliusを持っていない人にファイルを渡せるというだけでも意味があるソフトウェアなんですけど、そのうえ音を再生することもできて、タブ譜も表示させることができるんですよ。
ロック・ミュージシャンは、譜面の読み書きができない人が多いんです。だからいきなり五線譜を渡すと拒否反応を示したりするんですけど(笑)、そんな人とやり取りするときはScorch が最高に便利なんです。
ツインギターのメロとかを説明する時にも譜面だけでなく、タブ譜も表示されて音も再生されるという、本当に至れり尽くせりのソフトウェアですよね。
山本さん
sibeliuski パット・メセニーも恭司さんと同じようにScorch を活用しているそうです。
本当に便利なソフトウェアですからね。それにScorch は移調もできるんですよ。彼の作る曲ならメンバーに渡す時もこの再生機能がとても役立ちそうですよね。 山本さん
sibeliuski やはりギタリストはタブ譜に親しんでいる方が多いのですか?
譜面が読めない人でもタブ譜だったら大丈夫ですね。学校で教えていても、今時の若い子は譜面は読めなくてもタブ譜は読めるという子がほとんど。僕よりも速くスラスラ読むので、時代は変わったなと思いますね(笑)。
ただタブ譜と言っても、解釈によって変わってくるので、その辺りはもうちょっとSibeliusには頑張ってほしいかな。そのフレットで始まったのなら、そこには行かないだろうというのがたまにあるので(笑)。
山本さん
sibeliuski 恭司さんの周りのギタリストでSibeliusを使っている方はいらっしゃいますか?
渡辺香津美さんとかそうですよ。香津美さんは“絶対にSibeliusだよ”って言っていて、セッションするときはファイルでやり取りしていますね。それが便利なので、他のミュージシャンも全員Sibeliusを使ってくれればいいんですけど(笑)。
最近は他のどんな譜面作成ソフトよりもSibeliusの方が使いやすいという話をよく耳にしますしね。昔はSibeliusって機能的に少し物足りない感じがあったと思うんですが、最近のバージョンはとても進化していますし、使いやすさでは群を抜いていると思います。
Sibeliusの方が新しい分、動作が軽くて操作体系もシンプルなんですよね。細かいフレーズを打ち込む際は、Pro Tools からSibeliusにデータを転送して入力する動作が軽くて操作体系もシンプルなんですよね。
山本さん
sibeliuski 恭司さんの作曲法をおしえてください。

もういろいろなパターンがありますよ。(取材用のレコーダーを指差して)こういうレコーダーを回してギターを弾くことが多いですけど、Pro Tools でリズムを鳴らしながらMIDI キーボードを弾く場合もありますし。
もちろん、たまには譜面に音符を書き込みながら作ってみようと思って、Sibeliusを立ち上げるときもある。もういろいろですね。
山本さん
sibeliuski シーケンサーとしてはPro Tools を使っているのですか?
そう。でもウチの息子なんかはシーケンスもSibeliusでやってしまっています。外部音源を繋げば、じゅうぶん使いものになる感じですね。
だから僕もSibeliusでやってしまおうかなと思ったんですけど、人からシーケンスと譜面作成はソフトを分けた方がいいよと言われたので、シーケンサーとしてはPro Tools を使っています。
でも、将来的にベロシティを細かく調整できたり、シーケンサーとしての機能が強化されれば、Sibeliusでもいいんじゃないかという気がしていますね。内蔵の音源もどんどん良くなっていますしね。
山本さん
sibeliuski Sibeliusは、Pro Tools と連携できる点も特長だったりするのですが・・・。
もちろん連携させています。やっかいなフレーズのときはMIDI キーボードを使ってPro Tools に入力するのは大変なので、Sibeliusに転送して編集したりとか。ストリングスのアレンジなんかは、Sibeliusでじっくりやった方が良かったりするんですよ。
もちろん、逆にSibeliusのデータをPro Tools に読み込ませることもあります。今は自宅にPro Tools を置いているんですけど、外でノートブックを使って譜面を書き、うちでそれを読み込ませて録音に使うとか出来るのが便利ですよね。
山本さん
sibeliuski Sibeliusはどんなコンピューターで使用されているのですか?
Pro Tools のMac にも入れてあるんですけど、このノート・パソコン(註:富士通製のWindows PC。OS はWindows 7) で使うことが多いですね。Pro Tools のMac でSibeliusを使うと、音を出力するためにPro Tools が勝手に立ち上がっちゃったりするので(笑)、パソコンは分けた方がいいかもしれないですね。
ちなみにPro Tools はPro Tools|HD システムで、Mac Pro にはHD Accel カードを2 枚挿してあって、オーディオ・インターフェースは192 I/O を使っています。
山本さん
sibeliuski 恭司さんはアンプ・シミュレーターは何を使っているのですか?
なるべく本物のアンプを使った録音を心がけています(笑)。もちろん、アンプ・シミュレーターはたくさん持っていて、Eleven はプラグインとラック、両方使っていますよ。
あとはLine 6 POD Farm やFractal Audio Axe-Fx Ultra、Hughes & Kettner TUBEMAN とか。みんな良く出来ているとは思うんですけど、同じアンプのモデルでも全然キャラクターが違ったりするんですよね。
モデリングと言っても、そのときに使ったマイクの種類とか立て方で結果はまったく違ってくるでしょうし。マイクって1cm ずらしただけで、ガラッと音が変わりますから。
山本さん
sibeliuski ご自宅にもアンプを鳴らせるブースはあるのですか?

小さいスペースですけどね。でも、小さな音でも実際にアンプを鳴らすと良かったりするんですよ。アンプはHughes & Kettner のTRIAMP を10 年以上愛用しています。僕が愛用しているTRIAMP は、昔のタイプですけどね。
山本さん
sibeliuski 話をSibeliusに戻して・・・今後、Sibeliusに期待することと言うと?
昨日、息子に訊いたんですよ。明日アビッドさんと会うから、何かリクエストない?って。そうしたら一生懸命考えているんですけど、何も出てこない(笑)。
それだけ現在のSibeliusは、譜面作成ソフトとして完成されていると思いますよ。強いて言うなら、あるメロディーにハーモニーを付けるときに音符の向きが思うようにならないときがあるので・・・。それをどうにかしてほしいんですけど、僕が使いこなしてないだけなのかもしれない(笑)。
山本さん
sibeliuski 少し難しいんですが、記譜ルールを設定することで上手くいくと思います。
でも基本的にSibeliusは、ユーザーが難しい設定をしなくてもきれいにレイアウトできるような設計になっているんですよ。
まだまだ使いこなしてないなと思います(笑)。アンプ・シミュレーターもそうなんですけど、どんどん深いところまで入れるようになっているのに、使い手がそこまでいっていない(笑)。
頑張って機能を覚えて、使いこなして行こうと思います。
山本さん
sibeliuski 本日はお忙しいなか、ありがとうございました!

山本恭司 ~プロフィール~

ロック・ギタリスト。1976 年に伝説のロック・バンド:BOW WOWのギタリストとしてデビューし、日本人離れした華麗なテクニックと独特のフレージング・センスで、瞬く間にジャパニーズHR/HM シーンのトップ・ギタリストに。その後、バンド・ネームをVOW WOWに変え、イギリスを拠点にワールド・ワイドに活躍。現在はBOWWOWとして再結成し、リーダー兼ギタリスト/ボーカリストとして、日本のロック・シーンを牽引するカリスマ的存在。
2014-01-01 | Posted in ユーザーインタビューComments Closed